2014年10月3日金曜日

スカイラインとティアナ ジャンル細分化の時代。

  日産ティアナの国内販売がどうも盛り上がりません。まあある程度は予想していたことですが、このクルマの良さをもっと敏感に捉える人々が多くいるかなと思いましたがさっぱりです。日本はまだまだ豊かな国で、中古車市場で程よい価格のクルマが供給されてしまうため、新車で売るとなるとそれなりに話題性を持つ必要がありますので、その点で3代目ティアナは苦戦を強いられているようです。日産としてもほぼ同時期に発売したスカイラインの販売が一巡するまではあまりティアナを前面に押し出すことができないという苦しい事情がさらに重なっています。しかもスカイラインは新たにやや廉価なターボモデルを追加販売しましたから、まだまだグイグイ売れ続けています。メルセデスのガヤガヤと騒々しい2L直噴ターボエンジンなんかよりも、ティアナの2.5L直4NAの方がよっぽど快適ではあるのですが、セールスマンはおそらく廉価なティアナを推す事が"禁じ手"になっているはずです。

  スカイラインはライバル車に比べればお買い得ですが、それでも軽く500万円に到達しますので決して安くないです。もっとお手軽に良いクルマを求める層にはティアナがちょうど良いと思うのですが、300万円台となると話題性を備えたアテンザが魅力的に見えますし、中古でメルセデスかBMWの程度の良いものを選ぼうと考える人も多いようです。スカイラインの影に隠れてしまって、ほとんど注目もされなくなったティアナですが、コンセプトや設計方針のブレがないことで定評のある日産のグローバル最量販モデルですから、もちろんその存在価値に疑いの余地はありません。アメリカ市場や中国市場で売られるモデルはしばしば「日本軽視!」という汚名を着せられることがありますが、すっかりアメリカナイズされた生活環境に今日まで憧れ続けてきたのに、クルマに関してはイチャモンをつけるのはオカシイですよね。

  そもそもクルマの専門家であるカーメディアが、スカイラインもティアナも一括りに「セダン」と捉えてそれで終わりにしてしまっていることに不満を感じます。海外のカーメディアを見ていると、最高に静かな「サルーン」と最高に軽快な「スポーツカー」に関しては日本車が世界ナンバー1だから世界で日本車は売れている!というある程度固まったイメージの上に評論が行われています。果たしてこの日本車の世界で評価される特徴を正確に伝えようと努力している国内ライターがどれほどいるでしょうか? どいつもこいつもと言ったら失礼ですが、優雅でもスポーティでもなく、日本にはまったく関係ないアウトバーン専用車に過ぎないメルセデスやBMWこそが絶対正義と考えているライターばかりが威張っています(まあ欧州市場では正義でしょうけど・・・)。

  ティアナというモデルは北米の2万ドル車というカテゴリーにおいては、トヨタカムリとホンダアコードとともに高い評価をされていて、エンジンパワーでいくらか上回るヒュンダイソナタやVWパサートがこの3台の日本車サルーンの足元にも及ばないほどに優れた静粛性と乗り心地を実現しています。最近ではマツダの基本設計を使っているフォード・フュージョンがシェアを伸ばしてきてはいますが、「サルーンは日本車」という盤石なイメージがすでに出来上がっています。アメリカ人はこれらの日本車サルーンの実力を高く評価しているのに、日本のカーメディアは「パンチ力がない」という訳の解らない"物差し"を振りかざし、これらのモデルに最大級の賛辞を送ることはまずないです。その心理の裏側には長年に及ぶアメリカ自動車文化への軽蔑の念と欧州自動車文化への憧れからくる歪んだ視点があるように思います。

  その一方で、敢えてメルセデスやBMWのような世界観に挑戦していく日本車版GTカーの代表格が「スカイライン」や「スバルWRX S4」や「レクサスRC-F」です。カーメディアは意地が悪いのか頭が悪いのかわかりませんが、この手のクルマのレビューに際してはしばし「良く出来てるが、少々騒々しい上に乗り心地がイマイチ・・・」みたいな"愚論"を展開します。最近でも「スカイラインより新型デミオの方が乗り心地がいい」と動画レビューで清◯◯夫氏が仰ってましたが、そりゃあタイヤの太さがこれだけ違えば十分にあり得ることじゃないですか?正論かもしれないですが、クルマのプロを自認するなら嫌みたらしくスカイラインを蔑むように言うべきではないと思いました。余談ですがこの人のルボランの連載は本当に"クソ"です。

  何が言いたいかと言うと、日本メーカーの開発者にとって「世界一良いクルマをつくれ!」という"詔"を受けたときに、もっともポジティブになれる要素が「ジャンル」なんだと思います。日本メーカーは現状では最高のマテリアルを使うことができますから、とりあえず国内のライバルに決定的に負けさえしなければいいわけです。しかしそこではもはや「セダン」という大雑把すぎるジャンルは死語となっていて、「サルーン」「GTカー」「ショーファー」「スモール」と細分化された上で、そのニーズに「最適解」を持ち込むわけです。日産の場合だと、ティアナ(サルーン)、スカイライン(GTカー)、シーマ(ショーファー)、シルフィ(スモール)といった具合で上手く役割分担がされています。さて何だかちょっと浮いた存在になっているのがフーガ・・・でしょうか。トヨタ陣営にも同じことが言えますがレクサスGSが浮いちゃっています。

  スバルがGTカーを目指すなら、マツダはサルーンを志向する!といったような棲み分けも見られます。加速が楽しみたいならスバル、長距離を経済的に走りたいならマツダなのですが、スバルはCVTにこだわりマツダはトルコンATを使っているのが面白いところです。まあ別に律儀に分けて考えて、目的に合ったクルマを買いなさい!なんて説教がましいことを言うつもりは毛頭ないですし、日本車のように「最適解」だけがベストというのも視野が狭いですし、ドイツ車のロジックも十分尊重するに値する点が多いです。ただし日産のような潔癖のジャンル設定と各ジャンルで世界最高を義務づけられて、そこで頑張っているエンジニアの想いを踏みにじるようなプロのジャーナリストの評論に出会ったり、素人のバカみたいな誹謗中傷が目に余ったりすると、「ふざけんな!」と代弁してあげたくなってしまいますが・・・。


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