世界が認めたスポーツカー・・・まだ行ったこともない地域のネット動画に、GT-Rやランエボと並んでたくさん出てくるので、もっともポピュラーな「ストリート・スポーツカー」として君臨していることがわかります。あまり比較すること自体に意味はないですけど、ポルシェやロータスよりもより「身近な」スポーツカーとして愛されている様子が伝わってきます。
そんなスバルのスポーツカー文化の直系に当たる「WRX STI / S4」の現行モデルはどうもパッとしないですね・・・。「クルマ自体の素晴らしさ」云々よりも、「即日完売」でヘンな熱狂ぶりを見せる限定モデルばかりにマニア(スバリスト)の関心はに向けられるようになって久しいです。まあ歴代の限定モデルは中古車価格がプレミアですから600万円でも損は無いという判断するのも無理はないですけど・・・。あれこれと弄りたい人にはカタログモデルの「STI」を買ってもらい、弄る時間&労力が無い人(損もしたくない人)向けが「限定モデル」という見事な棲み分けが成立している。良くも悪くも日本らしいクルマ文化なのかも。
ランエボが廃止される一方で、インプレッサ後継の「WRX」の開発が継続されています。この両者を隔てたものが「アメリカ市場」だと言われています。別にアメリカ人がスバルを好んで三菱を嫌ったということではないです。幾つかの統計データと、アメリカ人ライターによる三菱やスバルへの評価を見ると、三菱もスバル以上の「高品質」(壊れにくい!)な日本メーカーとして十分に認知されているのがわかります。2000年代前半くらいまでは、トヨタ、ホンダ、日産といったメガメーカーよりも一歩先にいく「三菱ブランド」の高い信頼性を誇っていました。そしてアメリカ人に広く親しまれた「エクリプス」など北米専用モデルなどを率先して投入してきたのも三菱です。
単純に言ってしまうと、2000年代にアメリカでヒット車を出したスバルはアメリカ市場で躍進し、三菱のシェアはそれに喰われてしまったということです。パジェロの成功により「RV=ラダーフレーム」という古いカテゴリーに囚われていた三菱に対して、レガシィ・アウトバックという「SUV」の代表格といえるモデルを輩出したスバルは、この10年でアメリカで一番躍進したメーカーになりました。
そんなアメリカ至上主義に転向しつつあるスバルが、MTに乗らないアメリカ人にも楽しめるWRXとして先代に追加したのが、CVTを装備した「Aライン」(アメリカ・ライン?)でした。日本でも発売されましたが、AWDの常識を越えた回頭性が絶賛される「操縦感」が命のスポーツカーを、いきなり2ペダルにしてしまったら・・・カローラのボデーにクラウンのエンジンとミッションを組み込んだクルマ(ブレビス、プログレ)と乗った印象がかぶります。スバルに求めていたモノとは違うかな・・・スバルだと駄作だけどトヨタだったら名車になるパターンですね。
スバルとしてはアメリカ向けにせっかく2ペダルを作ったのだから、日本でも売ろうとしただけでしょうが、当時はGT-Rもランエボも2クラッチのDCTを装備していましたから、これはちょっと具合が悪かったですね。燃費重視の量販車は日本製(ジャトコ)のCVTを、ニュルでラップを刻むならばドイツ製(ゲトラグ)のDCTを、という「国際分業」が成り立っている中で、なんでスバルのスポーツカーがジャトコ(と共同開発)のミッションなんだ?・・・そんな有り難くないイメージが付いてしまいました。
実際にブレビス、プログレからの乗り換えがどれだけあったのかはわかりませんが、ハッキリ言って現行のWRX・S4に関してはこれをターゲットにしないと成立しないクルマだと思います。このクルマを「WRX」で売ることに躊躇いは絶対にあったと思います。「STI」とはエンジンから違っていて、こちらは最新の電子デバイスがガッツリ盛り込める新型エンジンです。ただしこのFA20型(86/BRZと同じ)はターボ化すると重心が高くなる欠点があるそうで、確かにS4乗ってもボクサーの低重心はあまり感じないです。踏んでモッサリ、曲ってもアレレ・・・これではブレビス/プログレと言われても仕方ない。
誰もなかなか言わないので書いてみたいと思いますが、スバルの販売を押し上げている「アイサイト」・・・S4に搭載されているこの機能は残念ながら高性能ユニットとの相性が最悪です。スバルはひた隠しにしているようですが、アイサイトを装着すると0-100km/hの加速は2秒以上遅くなると思われます。あくまで乗った感覚ですが、おそらくS4はAラインの「6秒」よりもさらにずっと遅いです。8秒くらいかな? 原因は乗ってみれば誰の感覚でも明らかでしょうが、CVTの制御による介入の手数が多くてやたらと「モタモタ」するんです。(スバルの特別プログラムによる裏技発進術があるようですが試したことはないです)
実際のところ0-100km/hで8秒ならば加速性能としては何ら不満はないです。CVTでここまでの高性能モデルが作れてしまうのは、世界中でもおそらくスバルだけです(そんなことをやろうとするのがスバルだけ)。だからこそ思うのですが、現行のWRXになかなか世間の注目が集まらないのは、スバルのやや暴走気味な「頑固」さの根拠/ビジョンが不明確で伝わらないのに、メーカーは「スバルは完全に未来を見据えている」かのような実感の伴わないスローガンを連発する・・・。ユーザー側の受ける印象と、メーカーの意識がここまで乖離したクルマは非常に珍しいのではないか? 当然にこんな製品開発&展開にユーザー側が完全に付いて行けていないわけです。
2007年にGT-Rが発売されました。AWDスポーツカーとしての絶対的な加速性能において、スバルや三菱に引導を渡した・・・と見るクルマ好きは多いと思います。ランエボの販売は大打撃のあと全く復活の気配を見せずに終焉しました。そんな日産に対してスバルがやけくそ気味に仕掛けた「自爆テロ」が・・・「アイサイト」だったと思います。スバルとしては「もうWRXだけではブランドを意地できないから新たなイメージリーダーを!」という意図だったのでしょうけど、このアイサイトを発表することで、これまでひたすらに(赤字でも)こだわってきた「スポーツカー文化」の根源を破壊する可能性を持った「パンドラの箱」だという危惧をスバルも当然に持っていたはずです。
もちろん「自動ブレーキ」は非常に画期的で有益な機能であることは間違いなく、当然に他のメーカーを巻き込んで急拡大しましたが、現在では「エコユニット」(ハイブリッド、直2~4ターボ)と「エコミッション」(CVT、多段AT)が当たり前になった乗用車全般にさらに「自動ブレーキ」が追加されることで、さらなる乗り味の低下を招いてしまっています。
果たして次期GT-Rの開発が大詰めを迎えている日産は自動ブレーキを積むのか?(積むわけないだろ!)。「積む派」のBMWと「積まない派」のポルシェの各モデルを見ていると、そのタイム差がどんどん開いていますが・・・。BMWの多くは既に「普通のクルマ」ですが、ポルシェのスポーツカー(911など)はあくまでサーキットのクルマにこだわっていて、かつてのライバル関係はスバルが仕掛けた「核弾頭」によって完全に袂を分つことになったようです。GT-Rのターゲットはポルシェ、スカイラインのターゲットはBMW・・・。スバルも同様の作り分けを意識しているとは思いますが、絶対的性能でGT-Rや911ターボに太刀打ちができない「STI」はやや日陰な存在です。
それではスカイラインやBMW3シリーズをライバルにした「S4」はどうか? これも先代で「4WS」を現行で「ステアバイワイア」を持ち込み、常に特別な乗用車であろうとするスカイラインの気高さに比べて、まだまだ志が低いような気がしてなりません。「自動ブレーキ」「直4ターボ」「CVT」「AWD」「ESC(横滑り防止)」といった十字架を全部背負って「スペクタクル」なクルマを作ろう!という幻想を追いかけて道半ば・・・。気が付けば「自然吸気」「6MT/6AT」で原点回帰を志向するマツダ車にすら負けられないはずの「ドライバビリティ」で圧倒されているのでは?
S4が発売した頃に「1位スカイライン 2位アテンザ 3位S4」という順位付けをしたことがありました。何に重きを置いたか?・・・まあ素人の目線で恐縮ですが、完成度の高さです。「ここをこうすればもっといいはず!」という点が一番少ないのがスカイラインで、最も多かったのがS4だったというだけの話です。どのクルマもパワーは申し分ないですし、長時間ドライブする上でどれも優れた実力を持っているのは確かです(いずれもゴルフ、Cクラス、3シリーズより優!!!)。しかしその水準において、S4には「ずっと乗っていたい」と思わせてくれる「イデア」的な魅力がまだ積上っていないと感じたのです。
しかしウラを返せば、現行のS4のパッケージにもっとも可能性を感じたとも言えます。スカイラインやアテンザはこれ以上の改良の余地が見出せないですし、「スポーツカー」ではなく「スポーツサルーン」をHVやディーゼルのパワーで駆動させるという次元のクルマでの完成形だと言えます。一方でS4のCVTペダルフィールは、メルセデスやBMWの直4ターボ&エコATと比べてしまえばそこまで酷くはないです。むしろ300psを振り回すことの限界値の高さを考えれば、大健闘の力作と評してもいいくらいです。けれどもスカイラインやアテンザより小振りなボディとAWDによる出足の良さを期待して踏むと・・・あれれ なんですね。プログレ/ブレビスの乗り換え用ならばこれでも十分に納得できますけどね。
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