2014年9月17日水曜日

スイフトとデミオ 欧州で残す爪痕

  街中を最新のCセグハッチバックがノソノソと走っているのを見かけると、思っていた以上に立派だなといつも感心します。ゴルフ、アクセラ、Aクラスはもう重々承知していますが、ひと昔前(2011年)に登場したインプレッサも改めて見ると、塗装やキャビンの膨らみはレガシィと同等ですし、とても新車で170万円ほどで買えるクルマには見えません。そしてどのクルマもCセグのイメージを変える重厚な走りをしてます。トヨタの国内専用モデル(カローラ、プレミオ、アリオン)や、日産ブルーバードシルフィといった5ナンバーCセグの生き残りと並ぶと、これはもう同じクラスと言うのは無理がある気がします。

  車幅もクラウンと同等の1800mmなんてサイズが当たり前になってますし、ここまで来るとかつての軽快なプレイベートカーという印象はだいぶ薄れ、年配の人でも堂々と乗れるように乗り心地重視・・・というのが各メーカーの総意といったところかもしれません。それほど広くない後ろ席がどれほどの頻度で使われるのかわかりませんが、車格に見合った安定感の実現のためにもマルチリンクの配備は妥当なところでしょうか。VW、PSAとトヨタ・オーリスの1.5Lモデルにはトーションビームが使われていますが、路面によってはこちらの方が後輪の変な粘りが無く、その分だけ軽快に次のモーションに入れるというアドバンテージもあります。

  かつては1100kg程度に収まっていた車重も軒並み1300kgを超えるまでになっていて、しかしエンジンはターボでトルクが厚くなっているとはいえ、ベースモデルでは軒並み110ps程度のエンジンなので、乗る前からストレスが溜まりそうな「鉛が詰まった乗り味」を想像してしまいます。10kg/psを境目に軽快さは大きく失われてくるので、110psほどの出力で軽快で楽しい乗り味を求めるクルマ好きの視線は、完全にCセグではなくBセグへと集まっています。この流れを良く表しているブランドがフランスのプジョーで、Cセグ相当の308はカブリオレが密かに人気ですが、スポーティなプジョーを求める層は208GTIにプジョーの理想郷を見出すようです。

  そんなBセグ市場で最もスポーティなハンドリングを持つ「2大スター」がスズキ・スイフトとマツダ・デミオ。日本車の独壇場!と言ってしまうとなんだかつまらないことになっちゃいそうですが、実はちょっと事情があってトヨタ・日産・ホンダの日本3強がこのセグメントには全力投球してません。よって他のセグメントよりも比較的に国際的なバランスが取れていて、EUとのFTAを武器に韓国ヒュンダイグループは、このセグメントで大きく欧州シェアを獲得しています。ちなみにトヨタとホンダは伝統的な日本とアメリカの2つの市場を最優先しているため、欧州でジャンルが確立されている「パフォーマンス系Bセグ」にはほとんど興味を示していません。また日産はグループ内のルノーがこの分野での参入を制限しているため、かつてのパルサーのような得意のハイパフォーマンスモデルの開発を凍結しています。

  一方でヒュンダイはご丁寧にもスポーティに振った「i20」と、ユーティリティを重視した「ix20」とを作り分けて欧州市場に参入しています。簡単に言うと「i20」がマツダデミオのようなスタイルで、「ix20」はホンダフィットの設計をなぞっています。この2台はどうやら欧州市場を切り崩すことを念頭においた設計で実に素晴らしい出来映えのようで、欧州各国メディアの評価も非常に高く、VW、欧州フォード、欧州GM(オペル/ボクスホール)の欧州3強が誇る渾身のモデルにひけをとらず、抜群のコスパによってEU各国で見事な快進撃を続けています。

  またヒュンダイはかつて三菱やスバルが世界的な名声を得るきっかけとなったWRC選手権にも参戦して日本メーカーが築いた名声を追いかけるかのようなプロモーションを仕掛けています。WRCもいまではベース車がいずれもBセグに移っていて、フィエスタ(フォード)、ポロ(VW)、i20(ヒュンダイ)、DS3(シトロエン)、ミニJCW(BMWミニ)の5台が主に参戦しています。スーパースターのセバスチャン=ローブ(シトロエン)がWRCから去り、今シーズンはレース毎にヒーローが登場する戦国時代になっているようで、ヒュンダイチームの認知度も次第に高くなってきました。そして当初の戦略どおり「i20」の欧州市場の注目度も、日本車のBセグモデルよりもはるかに高くなっていて、いよいよ同じくWRCに参戦しているVWや欧州フォードに肩を並べる存在になりつつあるようです。

  今年始めにフィエスタが日本で再発されましたが、i20も世界のWRCベース車として日本でも買えるようになればいいと思います。トヨタのWRC参戦の噂が絶えないですが、レクサスでワゴンを作らないなど、欧州市場を重視する気は全くない様子なので、噂のまま終わりそうで・・・ヴィッツは一体どうなっていくのでしょうか。トヨタが自社のマーケティングよりも、社長が公言するように「クルマ産業全体の将来像を前向きに模索する」姿勢ならば、100万円台で若者にも手軽に買えるモデルが注目を集めるWRCをぜひ盛り上げてほしいとは思いますが・・・。

  さて現在ではWRCから遠ざかっているのに、欧州市場でも根強い人気で多くのクルマ好きから大絶賛されるマツダデミオとスズキスイフトの2台です。ヴィッツやフィットが欧州路線を全く考えていないのに、やたらとスポーティなハンドリングマシンが日本の中堅メーカーから生まれたのは、この2台が今も欧州3強として君臨し続ける「欧州フォード」と「欧州GM」の小型車開発の部門の主軸を担っていた過去があるからと言われています。マツダもスズキも冷戦後に巻き起こった自動車業界再編においてM&Aの犠牲者として語られることが多いのですが、マツダの幹部も言っているようにフォードと組んだからこそマツダの技術力が大きく生かされる機会がもたらされたので、M&Aを経たことはマツダにとってとても幸運だったようです。

  同じことがスズキにも当てはまると思いますが、こちらはGMやVWと派手な訴訟沙汰を起こして紛糾したために、幹部が表立ってGMの傘下に入って良かった!とは絶対に言わないみたいです。しかしもし欧州に基盤を持つ巨大メーカーとの資本提携が無ければ、スイフトスポーツのようなスズキを強く表現するモデルは生まれてなかったかもしれません。もちろんWRCに参戦するメーカーは小型車技術だけでなく、レギュレーション上どうしても必要になる高性能な小排気量ターボエンジンを開発が必須になるわけで、マツダやスズキがWRCに参戦してすぐに頂点を取れるとも思わないですが、日本のお家芸と言えるBセグにスポットライトが当たっているWRCがもっと日本でも親しまれるモータースポーツになればいいと思います。フォーミュラEの全GPを地上波生中継するみたいですが、WRCをぜひ中継してほしいものです。


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