2015年8月26日水曜日

ホンダCR-Z が 86/BRZよりも優れている点

  レクサスから待望の2ドア車・RCが発売されて、ほぼ大方の予想通りレクサスISのシェアを半減させました。レクサス(トヨタ)としてはISに比べて利幅が大きいであろうRCが売れることはウェルカムでしょうから、RCの日本投入は商売的にも悪くない結果と言えます。「2ドア車=スポーツカー」と安直に断じてしまうには違和感がありますが、RCの成功が2ドア車やスポーツカーの販売に懐疑的だったと伝えられる日本の各メーカーにとって、開発に踏み切るハードルはかなり低くなってくれればクルマ好きには嬉しい限りですが・・・。

  例えば「BMW220iコンバーチブル」といったモデルは、日本メーカーには見られない、いい具合に力が抜けたスペシャリティモデルなども、まったく皮肉無しに日本で使うには良さげで非常に好印象です。やがてこのモデルは3気筒化されFF化されて、BMW版の「ゴルフカブリオレ」みたいなクルマへと収束するかもしれないですが、本体価格が300万円台まで下がってくれるならば、ひょっとしたら日本市場に「スペシャリティカー」の一大ムーブメントを引き起こすかもしれません。とりあえず日本の至るところの観光地でレンタカーとして使われれば人気になりそうです。

  そもそも300万円台で個性的なクルマを作るなんて、ホンダやマツダにしてみたら朝飯前なわけですが、これらのメーカーはなぜか、フィットRSのルーフと内装を特別仕様にしたり、ロードスターのシャシーを4座にするみたいな小手先なことをやたらと嫌います。まあBMWがどんなクルマを作ろうがこの両メーカーにはどうでもいいことでしょうし、やはりNSXやRX7で「直球勝負」してきた歴史に泥を塗るような「軽い」クルマは作れません!という保守的体質による「やりにくさ」は今も脈々とあるようです。

  そんなホンダのラインナップの中で、少々浮いているのが「CR-Z」というモデルです。世界的な量販コンパクトカーであるフィットのシャシーを切り詰めたものに、同じくフィットのハイブリッドユニットをそのまま積んだ2ドアクーペスタイルのHVスポーツカーです。もちろんハンドリング性能を上げるためにベース車よりも車幅が拡大され5ナンバーサイズを超えた1740mmとなっていてフィットベースとは思えないほど威風堂々としています。2010年の発売直後は少々騒がれましたが、2012年にトヨタ86が発売されると残念ながら完全に忘れ去られた存在になってしまいました。
  
  不人気車といえども中古車価格は2010年モデルがまだまだ150万円と高止まりしていて、セカンドカーとしてこのレアなモデルに手を出すのはちょっと躊躇われます。S2000を彷彿させるフロントマスクは個人的にはかなり好きですし、HV車ですから当然ですが20km/Lを突破しているモード燃費も満足ですし、レクサスやBMWやプジョーのスペシャルティカーと違って内装もベース車とは全く違う専用のインパネが用意されている点も満足度が高いです。1100kg台の車重も峠を走るのに向いていますし、実際に奥武蔵グリーンラインなどの首都圏近郊の林道ルートでもしばしば見かけます。

  それでも住む場所にもよるかもしれないですが、例えば首都圏近郊の地域でコンパクトなスポーツカーを所有する意義というのは年々上がっていて、「買い物車」と「ドライビングカー」という二つのニーズをどちらも満足できるレベルで満たすことができる手頃でスポーティなセダンが減っているのもそれに拍車をかけています。この前買い物に付き合って埼玉県にある関東有数の規模を誇る「入間アウトレット」に生きましたが、そこの駐車場で見る限り、「お買い物車・86」の浸透度は予想以上に高いです。

  スポーツカー専用シャシーをわざわざ設計し、その非日常な着座位置で欧州のユーザーを歓喜に巻き込んだ「86」ですが、やはりトヨタが狙うマーケットは「普段の足」だったりするわけで、試乗時にその少々複雑な「ギャップ」に気がついてしまった多くの人々からは、「いろいろ気が利いているけど、スポーツカーとして買うには・・・」といった歯切れの悪さが聞かれます。もちろんトヨタの企画も実車も非常に良い出来映えですし、むしろこういうクルマを日本メーカーが力を合わせて作り上げたことを誇らしく思います。けれどもふと気がつくと「86」に向けている関心は「BMW220iコンバーティブル」に向けるそれを同じベクトルだと気がつくわけです。

  ベースグレードの本体価格は、ホンダCR-Zとトヨタ86(スバルBRZ)どちらもおよそ250万円です。マツダロードスターも当然にここに並べて来ましたので、競争はさらに激しくなっています。最古参のCR-Zにとっては非常に苦しい状況なのは当たり前ですが、パワーなら86、軽さならロードスターと両面が抑えられ、他は全てFRの専用シャシーなのに対し、フィットのFFシャシーに手を加えて使う「改造普通車」仕様ですから、買う側としてはいささか気になってしまうところです。

  「CR-Zという選択はない!」と言い切れそうな気がしますが、「86やロードスターは完璧か?」と考えると、あれ?ちょっと待てよ・・・と。まず86やロードスターのような古典的なスポーツカーに対する評価は高くなりがちですから、その点をしっかりと見据える必要があります。古典的でない=邪道と切り捨てるのではなく、ポルシェ918やBMWi8が登場する前に「モーター」をスポーツカーに持ち込んだCR-Zの先駆性には敬意を持ちたいです。古典的な頭には「モーター」なんて邪道ですが、日本の新幹線はガソリンでもディーゼルでもなくモーターで動いている訳ですし、乗り味が悪くなるクソ・ターボに頼って規制をクリアするぐらいなら、いっそモータートルクで解決する方が完全に理にかなっています。

  さて実際にCR-Zに乗ってみると、とりあえず狭い・・・いやタイトで運転に集中できる空間作りという意匠では86やロードスターよりも趣があります。発進時のトルクはなんといってもHVですから、ガソリンNAの86やロードスターに遅れをとることはありません。ハンドリング自体はHVのハンデを感じさせないほどにとてもナチュラルで、ホンダのコンパクトカーに有りがちな、「戻り」の悪さなども無いです。そもそも中型車でないので、ハンドルを開放してゆったりと運転するクルマでもないですけど・・・。そしてブレーキは86よりもよく効いてます。車重が100kg軽いというだけではない、マツダ・三菱・ホンダの高性能車に共通する安心感のあるフィールです。

  ロードスター、86、CR-Zのどれにしても、走りにこだわるユーザーならば、黙ってMTを選ぶと思いますが、やたらと多方面から評判がいいマツダ内製MTに負けないくらいにホンダ内製MTも操作フィールがなめらかで好感触です。86のものはちょっとクセが強い(と感じる)スバル製MTで、ハンドルもかなり重めなので女性やMTに慣れない人がシフト操作するのはちょっと大変かもしれないですね(この辺もラリースト社長のこだわりか?)。

  一方で2ペダルの限定オーナーの選択としては、マツダ・トヨタの採用するATか、ホンダのCVTの比較になるのですが、CR-Zが採用している「パドル付きCVT」は、CVT特有の踏み応えの無さを、ホンダが知恵を絞ったアプローチで「コントロール不能」の難物をスポーティといえる水準まで仕上げていて、同じくCVTを使うスバルよりも現時点では上手くやってくれています。とりあえずCVTの特性で0~40km/hくらいまでの実用域ではATよりも加速がいいです。トルクの細いガソリンNAとステップATの組み合わせは、やはり立ち上がりのダルさが最大の急所で、1200kgを超える86だと無視できない緩さが実際にあります。AWD車を主体とするため車重が嵩むスバルがATを使わない一因はこの辺にあるようです。

  個人的には2ペダルを買うならば、86やロードスターよりもCR-Zを推したいです。さらにCVTのCR-Zにはモーターチャージャーボタンが付いていて、バッテリー残量に応じて3LガソリンNA車に匹敵する加速が一定時間の間持続します。この機能も無意識の内に古典的なものを愛するスポーツカー好きからは「邪道」のレッテルが即座に貼られたようですが、これがなかなか使い勝手がよかったりします。たとえば国道1号「箱根新道」を小田原から登る際に、前を行く大型トラックが登坂車線に入った時にスイッチオンして、後続の「輩(やから)」な高性能車をブッチ切るなんてことも可能です(その後エンドレスな追撃戦になるかもしれませんが・・・)。まだ試したことはないですが、1.5Lにダウンサイジングしたロードスターは中速域からの加速や高い負荷がかかる状況での加速には、1000kg未満とはいえちょっと神経を使うようです。

  最大の懸案なのが、フィットの足回りをそのまま使ったために後輪サスがトーションビームになっている点です。しかしこれもアウディTTのようにマルチリンクでガッチリと安定した乗り味を作ることが、必ずしもスポーティな乗り味には貢献しない部分もあります。確かに箱根の芦ノ湖大観から熱海へ下る中速コーナーのワインディングをトーションビーム車でいくと、カルフォルニアにあるラグナセカ(サーキット)のコークスクリューを彷彿させる「3Dコーナー」では接地感が急激に失われて血の気が失せる瞬間もあるでしょうが、それも込みで楽しむのが208GTiやポロGTI、RCZといった「トーションビームスポーツ」の醍醐味とも言えます。

  トヨタ86もマツダロードスターも幾度となく所有が頭を過るくらいに素晴らしいクルマですが、スポーツカーに対する古典的な価値観や、高級セダンに向けられるべき判断基準をすべて取っ払って考えたときに、スポーツカー的なホイールベースを持ち、スマートにパワーの出し入れが出来て、車重もHVを感じさせない水準まで抑えられているCR-Zの魅力も非常に光ります。このクルマがもっと注目されればいいなと思います。

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