2015年3月25日水曜日

スバルWRX・S4にはどうも納得いかない点が・・・。

  昨年にランエボの廃止がアナウンスされて、ひとしきり「これも時代の流れか・・・」とクルマファンはガッカリしたわけですが、このクルマが欧州ではポルシェに匹敵するほどのスーパースポーツとして確固たる名声を獲得してきたことを考えると、三菱がせっかく積み上げてきた「ブランド価値」をあっさりと放棄するのは、メーカーのみならず日本のクルマ文化全体にとっても大きな損失だと思います。「ランエボが無くてもまだインプがあるさ!」という何となく楽天的な空気も感じたりもするのですが、歴代モデルを見比べると、ランエボが最後まで「速さ」という飽くなき進化を求めたのに対して、インプの変遷はどうもファンに甘えているのでは?とやや疑問に思う点が見受けられました。そんなスバルと三菱の決定的に違う開発姿勢から出てきたのが「WRX・S4」という全くのニューモデルなのかもしれません。

  スバルが誇る2Lターボ・300PSの水平対抗エンジンを積んだクルマが、より一般のユーザーにも広く自然に受け入れられる商品展開を考えたときに、出てくる「デザイン」「ボディタイプ」「パッケージ」が結果的にこれだったのだと思います。開発拠点が日本からアメリカのある程度移ったという情報もありましたが、先代のWRX登場時にやたらとプッシュしていたハッチバックをあっさりと切り離した「急展開」には、開発現場の違いだけでは説明出来ない「スバルの迷い」が見て取れます。余談ですが、GT-Rと同じ年に登場した不運もありましたが、先代WRXの出鼻を大いにくじいてしまったやや冴えないハッチバックは、その後にデザイン部門が猛烈に追い込みをかけたようで、その成果が現行の「インプレッサ」と「XV」のスバルらしからぬ精緻なデザインへと進化したようで、ある程度はリベンジを果たせたようですが・・・。

  さてスバルが新たなブランドアイコンに据えようとしているWRX S4ですが、やはり何度乗っても日本メーカーの高性能車とは思えないような「大味さ」が気になります。一般にあれこれ言われているCVTに関しては、スバルも重点的に開発資源を投下したようで、その結果それなりの配慮がしっかり施されていて、CVTとしては出色のフィールではないかと個人的には思います。決してVWの湿式DCTやBMWの8ATから見てフィールが劣るということもなく、逆にVWやBMWのミッションに感じるような、ややガサツで気持ちの悪い加速フィールとは違って、ジリジリとエンジンの余力を探ってグラインドする「スイング感」が再現できていると思います。VWもBMWもスバルもアクセルフィールは、ざっくりと言うと「バーチャル」な方向です。日産・レクサス・マツダが追求するようなリニア感は最初から意図していないようで、ペダル入力でのコントロールの余地は極めて低いです。早めのシフトアップは極めて機械的ですし、ペダルから放たれるインテンシティな動きは、シフト制御コンピュータとターボ機構そしてSIシステムのようなオーバードライブ機構によってとことん角が「丸く」感じられます。

  WRX・S4はレヴォーグとはちがって立派なグローバルモデルですから、アクセルフィールやシフトのタイミングなどは、VWやBMWといった欧州車と同じ方向を向いていてもいいので、個人的には好きではないですが敢えてここでこのクルマの弱点として挙げへつらうこともないかもしれません。しかしスバルは、この退屈な「ヨーロピアン」な味付けにされたパワーユニットとCVTの改良、それから最先端となる車線キープ・自動ハンドリング機構を備えたアイサイトを配備した段階でかなり満足してしまったのかなという気がします。問題視したいのが、それ以外の部分での完成度で、ニューモデルとはいえあまりにも期待を下回りし過ぎる出来映えでした。特にハンドリングがイマイチなのは残念です。今まさに日本メーカーのフラッグシップセダンが挙って取り組んでいるのが、このハンドリングであって、「日本の高級車」ならば絶対に避けては通れないものになっているのですが、スバルはどうもメーカーとしてそのような意識はもっていないようです。

  「日本のフラッグシップ車」とは、まずは大いに意匠を感じるエクステリアを備えています。その上で乗り込んでドアを閉めればその瞬間から外界から隔絶されるような密閉感が味わえますが、それは日本メーカーが誇る最高の組み付け精度によって実現しています。エンジンの音は日本的な静寂に耐える質感に程よくチューニングされていて、運転席に座れば、その包まれるようなインパネの造形に満足しつつ、ずっと座っていたいような居心地の良さを感じるものです。しばしば試乗してドアを閉めてそこに佇むだけで、エンジンをかける前の段階で「このクルマを買おう!」と思ってしまうことすらあるのが、日本のフラッグシップセダンなのだと思います。

  残念ながらスバルWRX・S4はこれらの条件をことごとく満たしていません。ズングリしたエクステリアはやや前近代的な「改造自動車」を連想させ(実際にそうなのですが)、統一感のあるデザインにはなっていません。車体剛性の高さは実感というよりスペック表から頭で理解してしまう部分があり、スバルのルーフは伝統的に高いので着座位置を下げると頭上スペースがややマヌケに感じますから、止まっている限りだと剛性の高さは感じません。同じスバルが作っている86/BRZだとピラーからその固さがビンビン伝わってくるようでしたが・・・。シートはノーマルでもサポートがやや大げさに見えて、なかなか上質でセンスも良いのですが、日本車全般に有りがちな据え付け剛性の低さが見られます。といっても輸入車だからといって目立って固いということもなく、最近乗った中ではレクサスIS350Fスポのシートがとても強固に据えられた印象があるくらいです。

  エンジン音のチューニングも意図が感じられない雑なものです。アイドリングから低回転はややパリパリした音が混じるトリッキーな音質で、高回転になるとエンジン各部の反響音がパフォーンと響きます・・・静音なのかスポーティなのかハッキリしろ!とイライラしそうな音です。インパネの造形なんですが、スバルはここに大量の純正ドレスアップパーツをカタログに盛り込んでいます。その中から選んでチェック柄のカーボンパネルを組み込むと、なんだか最近のBMWミニみたいな世界観になっちゃいそうな気がします。パーツ自体はかなり価格を抑えてくれているので、それほどに負担感はないですが、どれもテイストは小型の輸入車みたいなものが多いです。インテリアデザイナーがミーハーなのでしょうか? 個人的に運転席に座ってすぐに買う気が失せたポイントは左右のドアの前方に付いた三角窓です。慣れ?なんですかね、とてもプライベート感が奪われてしまう意匠だなと感じます。安全面ではとても意義あることだとは思いますが・・・。

  誤解を恐れずに言うならば、「WRX・S4」はアメリカ的な合理主義と複数のクルマ文化がクロスオーバーした「未知のクルマ」だと思います。受け手がクルマ全般に対してどういう「思い込み」をしているか?だったり、どのようなクルマに乗ってきたかにも依るでしょうが、いわゆる「スポーツカー」だったり「高級セダン」だったりの流儀のどれにも当てはまらないクルマなんじゃないかという気がします。ちょうど1997年にプリウスが登場したときに、どこにも分類できないクルマとして安易な比較ができないクルマになったように、この「S4」も他のクルマとの比較がとても難しいクルマなんだと思います。


リンク
最新投稿まとめブログ
 

2015年3月14日土曜日

アルファード を欧州で売れば メルセデス と BMW は終了するけど・・・

  いよいよ燃料電池車(FCV)の市販に踏み切った「世界のトヨタ」。トヨタ首脳陣が描く「環境とクルマ」の理想を追求するために、これから20年をかけてインフラ整備の働きかけに巨額の費用がかけるというのは、21世紀になってなかなか見られなくなった「壮大なロマン」を感じさせてくれます。しかし大前提として既存の自動車事業枠組みの中でトヨタが今後20年に渡って業界の最先端を走り続ける必要があります。世界規模の金融危機や2011年のような大災害が再び発生するリスクは日本に限らず非常に高いので、かなりの危機管理能力と幸運が備わっているかが大事です。

  そんなトヨタが戦略上持ち得ている最重要「カード」が、HVでもFCVでもなく、3代目がデビューしたアルファード(ヴェルファイア)だと思います。まだトヨタからは何の発表もありませんが、もしかしたらこの3代目を欧州市場へと投下し、世界の高級車の常識を一新するくらいの大規模な転換を狙っている兆候が見られます。日本を上回る勢いの破滅的なクルマ離れが進んでいるドイツなどの欧州主要市場では、自動車業界のイメージを大きく変えるような画期的なモデルが絶えず求められています。そして近年の欧州の自動車業界に明るいニュースをもたらし続けているのが日本メーカー群だったりします。

  自動車に対して淡白なフランスでは低価格でオシャレなクルマが喜ばれる傾向にあるようですが、停滞するシーンに風穴を開けたのが「都市型SUV」と称される小型クロスオーバーのモデルです。クラスレスで洗練された雰囲気は、これまでの重苦しく、古臭いクルマのイメージを吹き飛ばして、フランスの自動車販売を牽引しています。その嚆矢となったのが日産ジュークでした。その後ルノー日産とプジョーシトロエンの2大仏系グループから同様のモデルが次々に発売されました。そして一昨年に豊田章男社長の「肝煎」で販売が開始されたトヨタ86は、専用設計のライトウエイトスポーツということで、発売直後から欧州でも日本以上の大反響があり、一部の金持ちの道楽になっていたスポーツカー趣味を、再び広く大衆的なものへと引き戻す契機となったようです。

  また、これまでの欧州市場は「カンパニーカー制度」にある程度依存するところがあり、メルセデスやBMWの高級セダンが大企業のエクゼクティブに会社から支給されるという構造的な「利権」が存在してきました。この制度が2000年頃から崩壊を始め、メルセデスやBMWにはブランドイメージに固執しない廉価で比較的「粗悪」なモデルがどんどん増えました。そんな中で「利権」という甘い汁に頼らずに、質実剛健なクルマ作りで日本車と対峙してきたVWは、ドイツ国内でも大きな販売減に見舞われることもなく、それと同時に中国市場を牛耳ることに成功しました。「粗悪」と「中国向け」の面白くもなんともない二派の愚作はドイツ車をどんどんツマラナイものにしてしまいました。

  ちょっと話が広がり過ぎてしまいましたが、GT-R、ジューク、86、そして瞬く間にスーパーカー市場の主役となったマクラーレン車を全面的にバックアップする日産系列の開発会社など、欧州のクルマ離れを食い止めるために刺激を与え続ける能力を持ち得ているのが日本の自動車産業です。そしてその存在価値は皮肉なことに、日本よりもむしろ世界の自動車マニアから大いに称賛されています。アルファードも日本国内ではその素晴らしさが十分に伝わっておらず、絶えず激しい賛否両論どころかバッシングされることも多い微妙な存在でした。そんなクルマが新たに自動車の魅力を欧州の人々に伝えるのではないかと思うのです。

  トヨタの膨大なラインナップの中には、後輪サスに「ダブルウィッシュボーン(DWB)」が使われているものが幾つかありますが、これらの多くは欧州市場向けのクルマです。これを装備したオーリス、ウィッシュ、アベンシスといったモデルが欧州でのトヨタの販売の中核を担っています。小型のヤリス(ヴィッツ)やヴァーソS(ラクティス)などにはトーションビームが使われていますが、プリウス、プリウスαを除く中型以上のモデルはDWBです。さて新型アルファードですが、いよいよDWBを使ったシャシーを新造してきました。これはいよいよ欧州に投入への布石?と思いきや現在開催中のジュネーブMSにはまだ登場することはなかったようです・・・。

  いよいよ欧州でも十分に勝負できる足回りと補強されたシャシーを得て、その上に造られる車内のパッケージの良さは、世界の頂点を完全に極めた超絶スペックですから、おそらく投入されれば、欧州の陋習を打ち破り確固たる地位を確立するのは間違いないでしょう。いつでも欧州で仕掛ける準備はしているけど、やはり「武士の情け」という想いがあって踏みとどまっているのかなという気がします。トヨタに健気に技術援助を要請してきたBMWや、1989年に発売されたセルシオを作る際に参考にしたメルセデスを一気に窮地に追い込むような「リーサルウエポン」を投下するのは忍びない・・・。業界の盟主を自認するトヨタがやるべきことではない!という判断かもしれません。

  これまでのアルファードはトヨタの廉価車のシャシーを使ったコストダウン満載の要素が目に付いて、クルマ好きからはかなり酷評されてきましたが、いよいよトヨタが品質向上の方向へ舵を切ったことは率直に嬉しい限りです。業界の盟主の英断が他のメーカーにも確実に好影響を与えてくれるものと期待したいと思います。スカイ=ナンチャラというオブラートに包み込んで部品の簡素化(コストダウン)に励み、広告費をバラまいて業界をアジっている某国内メーカーにもぜひ猛反省して頂きたいと思います。

リンク
最新投稿まとめブログ