2014年11月18日火曜日

86とレクサスRC・・・トヨタにとって2ドアクーペとは一体なんなの?

  「珍車」というとちょっと小馬鹿にしたニュアンスがあるかもしれませんが、多くのメーカーが作ろうとは考えないタイプのクルマを「あえて」作るメーカーは素晴らしいと思います。最近のように自動車技術の画一化による自動車魅力の低下→クルマ離れが叫ばれる時代には、「珍車」をラインナップすることがそのメーカーの存在価値につながることもあるでしょう。トヨタが短いスパンで2ドア車を2つ出してきました。カーメディアの反応も割と好意的なようで、国産車ではかなり少なくなった2ドアクーペを「日本のユーザーのためにモリゾー社長がトップダウンで作った!」みたいな捉え方をされています。

  しかし・・・アルテッツァみたいな万能なセダンを求めていたはずの日本のユーザーの目先を巧妙に変えつつ、海外市場をがっつりと見据えて作っているんですよね。さすがはトヨタのマーケティング部門ですね。アメリカ市場で斜陽気味のマツダ・ロードスターやフェアレディZ、そしてメジャー路線に乗れていないCR-Zといったライバル車の弱点を徹底的にリサーチして、見事に「勝てるパッケージ」を見出したようです。2005年から北米で販売していたカローラサイズのFF2ドアクーペのサイオンtC(日本未発売)が2011年にFMCを行って2代目となり、新たに中国や中東へと販路を拡大しました。この時点ですでにトヨタは「86」や「レクサスRC」の開発を含む包括的な「グローバル2ドアクーペ基本戦略」が策定していたはずです。そして北米・中国・中東のラインナップ強化を狙って増やしたクルマにもかかわらず、「日本のユーザーのために」という小狡い演出をして日本でのイメージアップを図っているかのような印象を受けます。

  このトヨタの戦略に付き合わされたスバルは、「愛知のやり方はなんかズルいな・・・」と少々辟易したのかもしれません。単独で開発したレヴォーグはわざわざ本物の「国内専用モデル」であることに拘ったのかも・・・というのは考え過ぎでしょうか? それにしても86のデザインに宿る、日本のライトウエイトスポーツの文脈とは血縁関係に無いかのような一種独特の雰囲気はどうも気になります。従来の日本のスポーツカーはというと、ホンダS2000がマツダロードスターを意識し、ホンダCR-ZがS2000のフロントマスクを模していたりと、偉大なる先輩モデルに多かれ少なかれ敬意を持ってたりするものです。名前こそトヨタのかつての一般車のスポーツモデルをオマージュしていても、その影響はデザインには直接みられず、やはり「86」はトヨタの中の闇に閉ざされた計画から創り出されたモデルであることを物語っている気がします。

  ディーラーの営業マンはカタログの写真を使って、「トヨタ2000GT」と「トヨタ800(ヨタハチ)」をベースにしたという、86のデザインに関する経緯を盛んに仰ります。しかし日本車スポーツカーとはもっと柔和な表情で、みていてカワイイと思うものが多いですが、86のキャラクターはどうも「日本的」ではないです。デザインなんて人それぞれ受け取り方が違うのだから・・・という意見もあると思いますが、このクルマに関しては乗り味も今年の春に行われたMCを経てさらに日本車らしい繊細さが影を潜めている気がします。それほどパワフルなエンジンを積んでいるわけではないですが、アクセルを踏む度に後輪が豪快に地面を蹴り、ハンドリングは回頭性にこそ優れますが、かなり重めのステアリングとあって、全体的にとても大雑把なフィールです。まるでアメリカの荒野を自由に駆け回る!が当初からのコンセプトだったかのようです。ブラインドコーナー連発の日本の山岳林道では・・・どうもハマらない気がするのですが。

  「日本のクルマの実力を世界に知らしめる!」という意味でトヨタとスバルが共闘して、世界のマーケットに撃って出たことはもちろん大絶賛したいですし、見事に結果を残したことにも拍手したいです。同じ右ハンドルの国オーストラリアでは86は見事にスマッシュヒットしました。フェラーリやポルシェのような専用設計のスポーツカーを300万円程度で発売してしまうなんて、「日本車はやっぱり異次元にスゴい!」と大いに尊敬を集めたそうですが、そりゃオーストラリアの大平原を突っ走るには最高!といった乗り味のクルマですから大反響も当然の結果です。

  世界一なんでも器用にクルマ作りができるトヨタですから、アメリカ人やオーストリラリア人が小躍りして喜ぶクルマを作ることなんて朝飯前と言えます。もちろん日本人だって、アルファード/ヴェルファイアやハリアーなどのモデルに熱狂させられています。そんな器用な"総合メーカー"という名の「なんでも屋」にとって、「トヨタらしいクルマって何?」という個性の喪失に絶えず直面させられます。日本では「クラウン」かもしれませんが、世界では「ランクルのトヨタ」、多くの日本人にはそんなイメージはないと思います。カローラやカムリなどアメリカではいくつか尊敬を受けるモデルがありますが、メルセデスやBMWのようにグローバルカーとして欧州と北米にその存在を知らしめるモデルが無いことは、巨大メーカー・トヨタの最大のコンプレックスになっているようです。

  そんなトヨタにとって待望といえる「欧州・北米同時ブレイク」のモデルになったのが、この86といっていいかもしれません。メルセデスやBMWが商品性を意識してオープンや4ドアクーペといったモデルを乱発する中で、脇目もふらずに2ドアクーペに固執するストイックさにも、これまでのトヨタ車とは考え方が違うクルマだという意識を感じます。そして86発表から僅か2年という短いスパンで、今度はレクサスから「RC」という2ドアモデルが発表されました。このクルマにはまだ乗ったことがないのですが、「レクサスのイメージを変える!」というキャッチーなフレーズとともにカーメディアを賑わせています。簡単に普及する価格ではなく、大きな反響は起きないかもしれませんが、トヨタとレクサスの新たなクルマ文化と築いて行こうという決意が見られる一台のようです。

  経営感覚に優れるトヨタは、クラウンのようなマーケティングがしっかり確立したモデル以外は、「継続して作る」ということが無意味であり、全く会社の為にならないとばかりにあっさり切り捨てる勇気を持っています。そんなトヨタが正義とされて多くの日本車メーカーの間でもドイツメーカーのように「コンセプトを煮詰めて最上のクルマを作る」という発想は希薄になりました。クルマ好きにとってはトヨタのやり方は、必ずしも歓迎すべきものではなく、トヨタや日本メーカーのクルマ作りへの批判が、堂々と叫ばれるようになりました。そんなカーメディアの挑発にノったというわけではないでしょうが、86とRCの2台を立て続けに発表して見事に業界地図を塗り替えることに成功したようです。さてトヨタはこの2台を育て、どのブランドにも負けない「コンセプトの純化」をひたすらに追求するクルマ作りを継続できるのか?が注目です。


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